2024年4月10日8:00
50代からの女性向けに定期購読誌「ハルメク」を主とした情報コンテンツ事業や物販事業、コミュニティ事業を展開するハルメクグループ。雑誌「ハルメク」は「年額一括払い」という強気な決済方法で、雑誌不況にもかかわらず、販売部数を拡大。同社は2023年3月に東証グロース市場に上場し、同年3月期決算で大幅な増収増益を達成した。成長の背景には、顧客目線の誌面作りなど徹底したマーケティング戦略がある。
雑誌を起点に通販や講座などを展開
払込用紙やクレジットカードで支払い
ハルメクホールディングスは「50代からの女性がよりよく生きることを応援する」という経営理念を掲げる。月刊の定期購読誌「ハルメク」を起点に、会員制ウェブサービス「ハルメク365(サンロクゴ)」やカタログ「ハルメク 健康と暮らし」「ハルメク おしゃれ」による通信販売、百貨店への出店、講座、イベント、旅行といった幅広い事業を展開している。
「ハルメク」は、50代からの生き方や暮らしをテーマにした月刊誌。書店やコンビニエンスストアには置かず、定期購読(サブスクリプション)で販売している。購読料は12冊コース(1年)が7,800円、36冊コース(3年)が1万8,900円(いずれも送料・税込)。日本ABC協会の発行社レポート(2023年1月~6月)によると、定期購読者数は46.4万人で、他の女性誌の購読部数を大きく上回っている。主な購読者層は60代後半から70代だ。
2022年からは、「見る」「聴く」「学べる」コンテンツをそろえた会員制ウェブサービス「ハルメク365」をスタートした。無料コンテンツもあるが、会員になると、「ハルメク」電子版の1年分のバックナンバーが読めるほか、健康や美容、おしゃれなどに関する記事や動画、オンライン講座といったコンテンツが楽しめる。年会費は、「ハルメク」の購読者が1,980円、購読していない人は7,800円(いずれも税込)。「ハルメク」の購読とセットで申し込めるプランもある。「ハルメク365」の利用者は、40代後半から50代が中心だという。
「ハルメク」、「ハルメク365」、通販などの支払い方法は、払込用紙払い(郵便局・コンビニ)とクレジットカード払い。払込用紙のバーコードをスマートフォンの決済アプリで読み込んで支払う「アプリ決済」も可能だ。2023年2月現在、PayPayやd払い、au PAY、LINE Payに対応している。同社によると、現在は払込用紙払いのシェアが圧倒的に高いという。
読者目線での誌面、オリジナル商品作り
海外でのビジネスモデル展開も検討
ハルメクホールディングスの2023年3月期決算では、グループ全体の売上収益は前年同期比13.9%増の287億3,800万円、営業利益は同49.5%増の20億3,000万円と大幅に伸びた。同社は「ハルメク」と通販事業が大きく伸長したことが、増収増益につながったとしている。2024年2月に発表された2024年3月期の第3四半期決算によると、顧客数増加により、ハルメク事業、全国通販事業ともに二桁成長を継続した。事業全体の利用顧客数は前年同期比3.4%増の131万人と増え続けている。
雑誌不況の中、なぜ「ハルメク」が支持されているのか。同社の広報室長 入山真一氏はその大きな理由として、きめ細かいマーケティングを挙げる。「顧客が今求めている情報、ニーズはどこにあるのかという顧客理解が起点になります」(入山氏)
「ハルメク」は定期購読で販売しているため、読者の属性がつかみやすい。発売の半年前から年間特集に対する仮説を立て、社内のシンクタンク「生きかた上手研究所」と読者の意見を調査し、雑誌の企画に反映させる。発売後は読者にアンケート票を送り記事や広告の満足度を詳細に調査。それとは別に、雑誌に同封した「ご意見はがき」が毎月2,000枚ほど返送されるため、編集部のスタッフで手分けして目を通す。また、グループインタビューやアンケート調査などを通して、直接読者から意見を聞く。可能な限り読者との接点を増やして意見を吸い上げ、雑誌の特集や企画、オリジナル商品作りに反映しているのだ。例えば、スマートフォンの特集は反響が大きかったため、内容を変えながら定期的に掲載するようになった。
新規購読者の獲得についても緻密なマーケティングを行う。新聞広告を見てコールセンターに申し込みの電話をしてきた顧客に対し、広告のどこに興味を持ったのかを聞く。こうした意見を、次の広告内容に生かしている。
同社は今後も毎年売上収益10%増を目指して事業を展開していく。少子高齢化が進んでも、団塊ジュニアがシニアになっていくため、この先約10年はハルメクの市場は維持される見込みだ。だが、課題がないわけではない。入山氏は「団塊世代と団塊ジュニア世代では紙媒体かインターネットかという情報取得や商品購入の方法、価値観などが変わってきています。そこにいかに対応していくのかが一つの大きなポイントです」と話す。
また同社は、日本で培ったシニア向けのビジネスモデルを、これから高齢化が進む東アジアで展開することも考えている。今後の同社の動きにも注目したい。