2015年7月16日9:23
日本での接触・非接触EMVの本格導入に向けた説明会を開催
ビザ・ワールドワイドジャパン(Visa)は、2015年7月15日、接触・非接触を含むEMV化にむけた世界トレンド、各種要件、日本市場への本格導入に向けた注意点を業界全体として共有する目的で、決済端末ベンダーや印刷会社などに向け、説明会を開催した。
2015年10月から「EMVライアビリティシフト」が適用
世界各国でPOSやATMのEMV対応が進む
Visaは、偽造によるカードの不正利用の削減を目指し、ICカード取引の国際標準規格(EMV)仕様への投資を奨励し、さまざまなセキュリティ施策を牽引してきた。取引の偽造詐欺に関して、アクワイアラやカード発行会社(イシュア)のうち、EMV対応を行っていない会社に対して、ライアビリティー(債務責任)を課す「EMVライアビリティシフト」については、地域ごとの商習慣を反映し、昨年より順次導入が進められている。2015年10月には、IC化が遅れていると言われている米国のPOS取引、日本の国内 POS 取引が新たに対象となり、これをもって全世界のPOS取引でのEMVライアビリティシフトがほぼ完了する節目となる。
冒頭にあいさつしたビザ・ワールドワイド・ジャパン 新技術推進部 シニアディレクター 鈴木章五氏は、国内では、Visaがスポンサーを務める2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が節目となり、本格的な決済インフラのIC化が進むと説明。たとえば、経済産業省は、2020年のキャッシュレス化に向けた方策を発表。また、日本クレジット協会が中心となり、クレジットカード会社、決済代行会社、加盟店、国際ブランド、端末会社、情報処理センター、関連団体、経済産業省など、さまざまなプレイヤーが協力して取り組むワーキンググループ「クレジット取引セキュリティ対策協議会」が設立された。
決済業界EMVについて歴史は長く、10年以上前からカードの発行が行われている。世界でEMV化が進む中で、接触・非接触を含む EMV 化にむけた世界トレンド、日本市場の商習慣に即したインプリメンテーションの方法紹介、EMVCo.およびVisaの接触・非接触技術仕様や認定プロセスなどを説明する場を設けたそうだ。
説明会ではまず、EMV化の世界的トレンドについて、ビザ・ワールドワイド・ ジャパン 新技術推進部ディレクター・福谷大輔氏が紹介。EMVは、取引ごとに異なる動的な暗号文を生成するため、偽造カードによる不正な取引を検知できるメリットがある。また、暗号文は毎回違う値が入り、次回に取引するときは暗号文が変わるため、仮に情報を盗み出しても偽造取引ができないそうだ。
世界のIC化の動向として、POSやATMは、カナダ、欧州でほぼ完了、アジア・オセアニアも主要国ではほぼ完了しており、遅れているのは米国、韓国、そして日本となっている。日本の2014年11月から2015年1月の取引数をみると、POSが17%、ATMが0%となっており、主要国に比べ遅れている。
米国や韓国でも進むEMV
日本では偽造カードによる被害額が増加
米国では、2013年末に発生したカード情報漏洩事件を機に、偽造およびカードを提示しない非対面での「CNP(Card Not Present)」に対する対策が急務となり、EMV化の動きが加速している。2014年10月にはオバマ大統領がカードセキュリティに関する「大統領令」に署名。これは、政府として積極的にチップ&PINを推進し、政府調達カードや政府関係施設(国立公園)で、ICカードによる決済とPINの入力を求めていくという。また、ホーム・デポ、ターゲット、ウォルグリーン、ウォルマートなどでもEMVへの対応がスタートしている。米国でのIC化推進状況をみると、2015年末には70%のクレジットカードがチップ化を完了し、約半数の決済端末がEMV対応となる予測だ。また、決済端末のEMV化も進むと予測されている。
韓国では、2013年3月に政府がチップ付きカード発行の義務化を施行し、2014年2月に完了。ATMについても2015年3月に国内取引のチップ対応義務化が施行された。また、韓国信用融資協会(Crefia)より、「Credit Card POS terminal Information technology protection guideline」が4月29日に発表され、同7月から有効、2018年7月にすべての加盟店でのIC決済が必須となる予定だ。
EMV化が遅れている米国や韓国で対応が進むと予測されるため、不正利用の波が日本にやってくる懸念もある。現状、日本では、業界挙げての努力もあり、偽造被害額は全世界の1%弱となっているが、偽造カードによる被害額は近年増加しているため、EMV化は必要であるとしている。
また、福谷氏は、NFC対応へのグローバルトレンドについても説明。世界でのNFC対応端末の設置台数は2014年からの5年間で年率28.4%の成長が予測されており、2014年には約950万台のNFC対応端末が出荷された。NFC対応端末はまだ少ないと言われているが、世界の主要な端末メーカーは磁気、接触、非接触の3つの仕様を入れ込んだ端末を出荷するのが一般的となってきており、今後NFCは中心的な決済手段となるため、その数がさらに伸びると見込まれる。利用者の決済も接触・非接触にかかわらずEMVで定めたプロセスで行われるメリットもある。
また、Apple Payなどの開始により、モバイル決済に注目が集まっている。Visaが推進するEMVコンタクトレスの非接触決済「Visa payWave」は、2014年9月現在、54の国と地域で利用可能となっている。
続いて、野村総合研究所 金融ソリューション事業二部 上級コンサルタント 宮居雅宣氏が「日本市場の商習慣に即したインプリメンテーションの方法紹介」について説明した。同氏は、①キャッシュレス化の方向性と加盟店影響、②国際ブランド決済サービスの構造と国内外における利用方法の違い、③国内の端末オペレーションが目指すべき方向性――について解説した。
最後に登壇したビザ・ワールドワイドジャパン 新技術推進部 テクニカルデベロップメント ディレクター 今田和成氏は、接触・非接触IC取引に関する仕様の紹介、各種認定、運用方法の注意点について説明した。同氏は、セキュリティの観点から、EMVを推進する理由について解説。また、国内の取引時におけるカード・端末仕様と注意点について、取引拒否の事例などを紹介。さらに、接触・非接触の最新のカード・端末仕様と注意点、EMVとブランド認定などについても紹介した。
同説明会には、据え置き型端末やmPOSといった決済端末ベンダー、印刷会社、SIerなどが参加。登壇者の話に熱心に耳を傾けていた。