2018年4月26日8:00
国内でも非接触電子マネー、国際ブランド搭載のブランドプリペイドカード、個社が発行するハウスプリペイドカードなど、さまざまなプリペイドカードが発行されており、市場も年々拡大している。そこで、同分野を古くから追いかけてきたカード戦略研究所 中村敬一氏に、プリペイド市場を分析してもらった。
カード戦略研究所 中村敬一
Ⅰ プリペイド決済24兆円市場を検証する
(図表1)の、金融庁の資料で示された「前払式支払手段の発行額等の推移」によると、平成28年度の日本における前払式支払手段市場(プリペイド決済市場)は約24兆円である。
前払式支払手段(プリペイド決済)とは、資金決済法に規定された紙型・磁気型・IC型・サーバ型の前払式支払手段で、商品券や磁気プリペイドカード、電子マネーカード(IC型・モバイル型)、サーバで管理されているWebマネーやオンラインギフトカードなどが対象となっているが、具体的な事例は(図表2)の支払手段一覧表(日本資金決済業協会)を参考にされたい。
金融庁データによる過去10年間に見られる市場動向の特徴は、
①年間発行額と年間回収額に差が無く、発行された前払式支払手段(プリペイド決済)の多くは使い切られている。
②平成21年度から平成22年度の発行額・回収額が急激に伸びているが、これは市場が拡大したのではなく、前払式証票規制法から資金決済法に改正された時点で、これまで適用外であったサーバ型プリペイド決済を規制対象に加えたために発行額等が伸びたことに起因する。
③平成28年度の発行額等は、これまでの堅調な成長傾向に比較して、前年を下回っているが、これは市場全体が伸び悩んだと見るよりも、一部の業界の発行額等が急激に下がってきたことが主な要因と推測される。
以上の特徴を前提に、プリペイド決済市場の傾向を、日本資金決済業協会が毎年発表している「第19回 発行事業実態調査統計」<平成28年度版>から検証したい。
Ⅱ 協会統計にみるプリペイド決済市場の検証
(図表3)は、日本資金決済業協会が毎年発表している「第19回 発行事業実態調査統計」<平成28年度版>に掲載された、平成28年4月1日~平成29年3月31日の発行状況等を発行事業者に向けたアンケートで得た回答をまとめたものである。
本調査の回答率は約49%であるが、発行額等から見ると、金融庁データの約23兆7,000億円に対して、同協会統計では約20兆7,000億円と、約87%を捕捉しており、プリペイド決済市場の動向を知る上では有力な基礎データと判断される(残りの約50%の事業者で約3兆円を発行している計算になり、1社当たりの発行額を想定しても、本統計値がプリペイドビジネス市場の主動向を知るのに十分なデータである)。
ただし同協会統計の推移に関して、次の点に留意して見ていくことが必要である。
①「発行専門会社」の発行額に関して、平成26年度は、平成25年度と比較すると約13兆7,000億円減少している。しかし同年度の「その他」の業種が約13兆6,000億円に増加しており、「発行専門会社」から「その他」に発行額が移行されていることが分かる。
②平成28年度は、前年27年度と比較して発行額等が約8,000億円減少している。これは、金融庁データ(前掲)と同様の傾向(前年比約3,000億円弱減少)を示しており、本統計が市場動向の正確性を担保していることが分かる。
③本統計で示されている業種とは、プリペイド(前払式支払手段)を発行している事業者(イシュア)であり、一般的に使われている分類(例:交通系、流通系)とは異なっている。例えば電子マネーの業種別発行を例に取ると、(図表4)のような分類が推定できる。
①PASMOは交通系(運輸)電子マネーではなく発行専門会社に分類
②WAONは流通系(スーパー)だけではなく、その他(イオン銀行)、クレジット(イオンクレジット)にも分類
③nanacoは流通系(スーパー)電子マネーではなく、クレジット(セブン・カード)に分類
④楽天Edyは発行専門会社だけではなく、その他金融機関やクレジットでも分類されている可能性がある。
以上のように、1ブランド=1業種と限らず、ブランドによっては複数の業種で発行されている場合がある。