2019年3月28日8:30

国内では、nanaco やWAON、楽天Edy、Suica などの電子マネーに加え、近年はVisa やMastercard、American Express などの国際ブランド決済が可能なType-A/B ベースの非接触決済の加盟店が徐々に増加している。また、中国のインバウンド決済に加え、PayPay、楽天ペイ(アプリ決済)、LINE Pay、Origami Pay、d 払いといった国内プレイヤーもQR/ バーコード決済に積極的に取り組んでいる。そこで、株式会社ジェーシービーで15年間の実務経験を経て、株式会社野村総合研究所で約14年間、決済分野のコンサルテーションや決済ビジネスの立上げ支援に従事した決済サービスコンサルティング株式会社 宮居雅宣氏にモバイル決済の現状と展望について解説してもらった。

決済サービスコンサルティング株式会社 代表取締役 宮居雅宣

1. はじめに

2018年6月1日、改正割賦販売法が施行され、決済端末のIC対応が義務付けられた。加盟店は2020年3月までにPOSなど決済端末のIC対応を行う必要がある。同時に加盟店の管理強化やカード番号非保持化などセキュリティ対策強化が求められている。背景には不正使用被害額の増加がある。2016年には142億円だった不正使用額は2017年には236億円を超え、2018年はIC対応の進捗により偽造カード被害など一部で減少の兆候が見られたもののECを中心に不正使用被害は深刻さを増している。

一方、中国では現金も財布も持ち歩かずスマートフォン(以下、スマホ)を使ってQRコードで支払いを済ませるキャッシュレス習慣が都市部を中心に急拡大している。わずか数年前まで銀聯カードで爆買いをしていた訪日中国人観光客においても、“Alipay Wallet(アリペイ・ウォレット)"(以下、Alipay)や“WeChat Pay(ウィチャットペイ)"などのQRコードで決済するシーンを見るようになり、中国以外の国でも中国系のQRコード決済を取り扱う店が増えている。日本国内の決済サービスにおいてもQRコードを活用した新興系の決済サービスが存在感を高めており、2018年12月にはPayPayがどのニュースチャンネルでも取り上げられるなど一世を風靡した。

筆者の元にも、非接触ICかQRコードかどちらが良いのかとの相談を受領する機会が増えている。そこで本稿では、非接触IC決済とQRコード決済の仕組みと影響を考察する。

2. 非接触IC決済の仕組みと動向

日本は非接触IC決済が最初に普及した国である。2001年にSuicaがIC乗車券、Edy(現楽天Edy)が電子マネーの決済サービスを開始し、Suicaは2004年、nanacoやWAONが2007年に電子マネーサービスを開始した。日本のIC型電子マネーはFeliCaというソニーが開発した近接型非接触IC技術を採用しており、処理スピードの速さが最大の特徴である。FeliCaは機器間通信では国際規格(ISO/IEC18092)だが、近接型非接触ICカードとしては国際規格(ISO/IEC14443)ではなく、結果、日本国内にはFeliCa読取端末が沢山あるにも関わらず、WTOに提訴される可能性の高い公共系の非接触ICカード(IC運転免許証やICパスポート、マイナンバーカードなど)はISO/IEC14443のType-Bが採用されている。世界中の金融機関が採用する非接触ICもISO/IEC14443、即ちType-A/Bであり、データ電文は接触型ICと同じISO/IEC7816で書かれている。カードと端末の間でデータを授受する非接触通信の規格はType-A/Bで、そこに書かれているデータ電文の仕様はISO/IEC7816に準拠していると考えればよい。(正確にはEMV仕様に則った各ブランド会社の規格)

本稿で取り上げる非接触IC決済やNFCについても、VisaやMastercard、American  Expressなどの国際ブランド決済はType-A/B、nanacoやWAONなどの電子マネーはFeliCaを指す。

国際ブランド決済では、割賦販売法が改正される前の2015年10月にIC取引に係るブランドルールの変更があった。それまでは端末のIC化に関わらず不正使用の被害額はカード発行者側が負担するルールであったが、「チップライアビリティシフト」と呼ばれる責任負担ルールが変更され、カード側がIC化済なので端末がIC対応していれば防げたであろう被害額の責任は加盟店側が負担するルールになった。ブランドルールの変更ではないが、VisaとMastercardは非接触IC対応について世界的な対応ロードマップを発表しており、これが世界各国の決済シーンに大きな影響を及ぼすと考えられる。ロードマップは、欧米や中東、アフリカ、アジア太平洋地域など世界中で非接触IC取引ができるように環境整備する計画となっている。地域によって多少のバラつきはあるものの、基本的には2019年までにカード側(非接触ICカードやスマホアプリ)の非接触IC化を義務付け、加盟店端末については2023年までに非接触IC対応を義務付ける方向性であるi。ただし日本については接触型のIC化が遅延した事情やFeliCaが先行普及済の環境など他の地域とは異なる複雑な状況を勘案してか慎重に対応するようだ。

そもそもIC決済はICチップ取引であるから、即ちカード券面にパソコンが載っているようなものであり、例えば不正にICの中身を読取ろうとアクセスすればクラッシュするなど高いセキュリティ対策を施すことができる。接触型ICでは財布からカードを取り出して加盟店端末に挿入したが、非接触ICでは電子マネーのようにタッチするだけで支払うことができii、アプリを立ち上げたり画像を表示して端末の読み取り部分にうまく合わせて読み取らせたりする手間はなく、他者に画像を見られることを気にする必要もなく、タッチするだけで安全・スピーディに支払うことができる。国際ブランドは世界中で非接触IC決済を推進しており、キャッシュレス化が進んでいる北欧でも、海外からの来訪客が使う決済手段は国際ブランドの非接触IC決済が主流である。また、AppleやGoogleがiPhoneやAndroidスマホで国を超えて決済できる仕組みとして展開するApple PayやGoogle Payは、Type-A/Bベースの非接触IC決済でありiii、どこの国の金融機関が発行したカードでも、どの国際ブランドでも、前払い/即時振替/後払いのどの支払方法でも、国際ブランド決済の非接触IC端末があれば、利用者が自国で日常利用する国際ブランド決済がそのまま世界各国でモバイル決済できる環境が整備されている。

i  ご参考:https://newsroom.mastercard.com/mea/press-releases/mastercard-announces-roadmap-for-contactless-payments-consistency/
およびhttps://www.visaeurope.com/receiving-payments/contactless
ii 日本では1 万円未満など国や地域によって暗証番号入力を省略する運用が決められている。
iii 日本国内ではFeliCa にも対応。他国でもFeliCa ベースのアプリをダウンロードして使うことはできるが、金融取引のIC 取引電文はISO/IEC7816 に準拠したEMV 電文が主流であり、FeliCa はスピードに特化した技術によりISO/IEC7816 の電文対応が困難なため、現実的に他国の金融取引にFeliCa が使われる可能性は低い。

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