2019年10月17日8:00
岐阜県高山市の特定非営利活動法人活エネルギーアカデミーでは、スギやヒノキといった森林保護に向け、市内9カ所で間伐材を集める木の駅を中心に、飛騨・高山における間伐材の活用・流通を通じた自然エネルギー循環システム「木の駅プロジェクト」を立ち上げている。活動に参加した人は、集めた間伐材に応じて、地域通貨「Enepo」と交換可能だ。Enepo事務局の澤 秀俊氏に、「Enepo」の概要について話を聞いた。
9つの拠点で間伐作業を実施
日本円を「Enepo」にして作業者に還元・配布
高山市は山や森に囲まれた地域であり、面積約2,200平方キロメートルと、東京都(島しょ部除く)の約1,800平方キロメートルを上回る。その実に9割が森林だが、手入れされないままのスギやヒノキは、真っ黒くなるため、かび臭く、虫も寄り付かず、社会問題となっていた。また、土砂災害の危険が高まり、花粉をまき散らす課題もある。
高山市では、自然エネルギーを活用して日本一のまちづくりを目指すプロジェクト「高山エネルギー大作戦」を2014年に開催。地域に加え、全国からも活動家を迎え、高山市民が自然エネルギーの普及や活用案について学べる場を提供した。その最終回のテーマでは、地域通貨が取り上げられたが、理事長の山崎昌彦氏を中心に高山を日本一のエネルギー都市にする目的で、活エネルギーアカデミーが立ち上がった。
Enepo事務局では、毎週水曜・木曜の午前に主に活動しているが、常時15人程が集まっているという。高山市には、9つの拠点(木の駅)で間伐作業を実施。高山市が「積まマイカー」という8トントラックを助成して、週に一度の物流網を構築している。間伐材は不要の産物と言われていたが、回収された木材は木質燃料としてペレットなどの燃料に活用されている。また、飛騨の家具の老舗メーカーである飛騨産業がテーブルや椅子などを製造。さらに、特殊技術でアロマオイルになるなど、「間伐材は余すところなく使うようにしています」と澤氏は話す。そうした作業により、間伐材が売れるため、日本円を「Enepo」にして作業者や活動に参加した人に還元している。澤氏は、「『Enepo』自身もスギの圧縮材で作られており、木の手触り感や匂いを大切にしています」と説明する。
500Enepoで500円分として協賛店で利用可能
協賛店は飛騨信用組合で円に等価交換できる
Enepoは500Enepoのみとなり、500円分として市内75店舗の協賛店で利用可能だ。協賛店は、Enepoのコンセプトに賛同した店舗が主に自主的に集まったという。有効期限は開始当初3カ月間だったが、現在は半年となっている。作業者が手にした「Enepo」が、地域の協賛店で使われることで、その価値が市内で循環し、地域貢献につながる。また、「Enepo」は、人と人をつなぐコミュニケーションツールとしての役割も果たしている。
Enepoで決済された協賛店は、地域の金融機関である飛騨信用組合の窓口に持参すると、500Enepoを500円として、口座に直接入金される。澤氏によると、Enepoのようなアナログの地域通貨が銀行で等価交換できる仕組みはこれまでなかったそうだ。なお、手数料は活エネルギーアカデミーが負担している。
木材の価値をさらに高める
地域の山をより豊かな環境に
間伐処理に関して、現在は「清流の国ぎふ森林・環境税」で県が半分補填しているが、木材の価値をより高めることで、それがなくても成り立つようにしていきたいとした。2019年10月6日には、地場のスギ・ヒノキ・マツ・ナラ材を、飛騨産業で製材加工したものを建物の内外装使用した「飛騨古川 雪またじの屋根」が着工した。こうした取り組みにより、材料を製品化することで、単価をより高めていく方針だ。また、アロマオイルでは、スギエキスが土壌改良に有効であることがわかっており、それを認知してもらうことでより価値が高まるとした。
今後は、お金としての価値に加え、間伐によって地域の山が豊かな環境となり、そこに昆虫や動物が集まることで、よりより環境を作っていきたいとした。澤氏は、「これを形できれば、他の地域でも間伐で山の資源を宝にして、人々が循環を生み出せます」と意気込みを見せた。
※取材は第5回貨幣革新・地域通貨国際会議飛騨高山大会(RAMICS)会場にて