Singtel Dash
シンガポールベースの大手のモバイルフォンキャリアのSingtel(図表8)のモバイル財布Singtel Dash(図表9)は、シンガポール初のオールインワン・モバイルペイメントソリューションで、現在ユーザー数は100万人を超えている。Singtel Dashは、NFCベースの近接型のモバイルペイメントのほか、QRコード決済も可能で、Singtel Dashの QRコード決済も2018年よりSGQRとの統合が行われている。シンガポールの鉄道はIC乗車券のEZリンクのほか、NETSのIC電子マネーのNETS FlashPay、VisaやMastercardのコンタクトレスペイメント、Singtel Dashなどのモバイル財布のNFC(Near Field Communication)による運賃支払いが可能である。また、タクシーなどではQRコード決済も可能である。
モバイル財布のSingtel Dashは、Visa Virtual Account(図表10)を用いて、Visaのカード加盟店でVisaのコンタクトレスペイメントも可能である。シンガポールの場合、コンタクトレスペイメントは、100シンガポールドル(約8,000円)まではPIN(暗証番号)の入力は免除される。
モバイル財布のSingtel Dashにクレジットやデビットカードを紐づけすることができ、モバイル財布のSingtel Dashへのバリューのリロードなどが可能である。紐づけをすることができるクレジット/デビットカードは1枚に限られていて、Singtel Dashアプリにはクレジット/デビットカードの最後の4桁のみが保存される。Singtel Dashは、送金サービスも可能で、フィリピンやインドネシア、ミャンマー、インド、バングラディシュ、中国などへの送金も可能である。
なお、Singtelは、アジア、オーストラリア、アフリカに7億人のユーザーを擁するモバイルフォンキャリアの大手である。
VIAペイメントアライアンス
モバイル財布のSingtel Dash を展開するシンガポールのモバイルフォンキャリアのSingtelグループが主導するQRコード決済のモバイルペイメントアライアンスのVIAアライアンス(図表11)が、2018年10月にスタートした。VIAアライアンスは、アジア太平洋地域で相互運用が可能なペイメントネットワークを構築し、従来の通貨と国境によって断片化されたペイメントシーンを統合することを目指している。
VIAアライアンスメンバーは(図表12)の通りで、シンガポールのSingtel Dashのほか、タイ・AISのGLOBAL Pay(図表13)やKASIKORN BANKのK PLUS(図表14)、インドネシア・Link Aja(図表15)、マレーシア・Axiata Digital Boost MalaysiaのBoost(図表16)といったアセアン各国の主要なモバイル財布が参加もしくは参加を予定している。5,000万人以上のモバイル財布ユーザーが210万を超えるVIAアライアンス加盟店でQRコード決済が可能になる。VIAアライアンスに参加するそれぞれのモバイル財布によるVIAアライアンス加盟店で、それぞれの自国通貨でのQRコード決済が可能である。
VIAアライアンスの加盟店では、QRコード決済において各種特典を提供している。例えば、タイのMBKフードアイランドでは、VIAを通じてSingtel Dashで100バーツ(約400円)以上のQRコード決済を行った場合、20バーツ(約80円)の割引サービスを行っている。タイのバンコクでは、VIAのQRコードでBTSスカイトレイン(図表17)に乗車することもできる。また、シンガポールのギフトショップのNAIISEでは、50シンガポールドル(約4,000円)以上のQRコード決済を行った場合、10シンガポールドル(約800円)の割引サービスを行っている。Singtel Dashは、VIAによる海外のQRコード決済については、決済金額の5%のキャッシュバックサービスを行っている。
羽田国際空港・成田国際空港のVIA加盟店
VIAアライアンスに参加するSingtel Dashなどのモバイル財布は、シンガポールやタイ、インドネシア、マレーシアならびに日本のVIAアライアンスに加盟するショップで自国通貨でのQRコード決済が可能である。日本のVIAアライアンスの加盟店は、QRコード決済をサポートするネットスターズ(本社:東京都中央区、設立:2009年)によるマルチペイメントゲートウェイであるStar Payを通じて決済を行う。羽田国際空港(図表18)や成田国際空港ですでにVIAアライアンスによるQRコード決済が行われている。ネットスターズは、2015年7月からWeChat Pay、2018年4月からAlipayの各パートナーとしてアクワイアリングを行っている。
日本では、近年タイやインドネシアを中心に東南アジアからのインバウンドの訪日客が急速に増加している。2018年の東南アジアからの訪日客数は前年度比14%増の330万人を超え、タイからは前年度比15%増の100万人を超えている。シンガポールやタイ、インドネシア、マレーシアなどの東南アジアはモバイル財布のQRコード決済が急速に増加しており、こうした地域からの訪日客に対し、自国通貨建てによるQRコード決済が可能なモバイルペイメントアライアンスのVIAアライアンスは、日本の観光ビジネスに貢献するものと思われる。
<参考文献・資料>
・「フューチャーペイメント要覧」、
TIプランニング
・「キャッシュレス2020」、TIプランニング
・「世界の決済イノベーション市場要覧」、
TIプランニング
・2019 Global Payments Trend Report-
Singapore country Insight、J.P. Morgan
・NETSのHP
・SingtelのHP
・MAS(シンガポール金融庁)のHP
カード決済&リテールサービスの強化書2020より