2022年8月1日8:00
クラウド活用でシステム投資を抑制し、持続可能な公共交通を実現へ
広島電鉄は、2024年10月から、従来の乗車券システムを刷新し、クラウドを利用した「ABT(Account Based Ticketing:アカウントベースドチケッティング)方式」の乗車券システムを稼働開始する。新乗車システム採用の背景や新システムで目指す世界について、広島電鉄に説明してもらった。
記事のポイント!
①PASPYは8割が利用するなど利用者に浸透
②大規模投資が負担に、新サービス実施までの時間も課題に
③NEC、レシップと新交通システムを開発へ
④QRコードやICカードを認証媒体とする「ABT方式」を採用
⑤ABT方式でダイナミックプライシングも可能に
⑥汎用QR決済の導入には課題も
⑦駅窓口の業務緩和にも期待
⑧観光客向けには「MOBIRY」との連携も可能に
⑨将来は地域ポイント・地域通貨などとの連携も視野に
⑩広島の鉄軌道・バスへの導入を促す
⑪ICOCAなどの交通系ICカードについては?
⑫2024年10月のサービス開始に向け課題を乗り越える
割引サービスが好評なPASPYは8割の利用に
投資コスト、柔軟なシステム対応がネックに
広島電鉄は、2008年1月26日から広島県の交通ICカード「PASPY(パスピー)」を導入している。それまでは、SF(ストアードフェア、金銭的価値)は磁気カード、定期券は紙だったが、交通ICカード導入により1枚のカードに集約された。広島電鉄 交通政策本部 交通ICT推進部長 大上明紀氏は「多くの方にご利用いただき、収入として8割がPASPYとなっています」と成果を述べる。広島電鉄では、「ICOCA」など全国相互利用が可能な交通系ICカードの片利用が可能だが、現状では約1割の利用を占め、残りが現金だ。PASPYが普及した背景として、利用金額の最大1割引となるPASPY割引をはじめ各種割引サービス(定率割引・乗継割引・共通定期券制度など)を実施しており、乗客はお得に利用できる点が挙げられる。
PASPYの運用では、7~8年ごとに更新時期を迎える。2014年にはセンターサーバや端末などをリプレイスしたが、仮に現行システムで運用を継続した場合、2025年にも機器の老朽化による大規模投資が必要だ。広島電鉄では、コロナ禍で乗車減などの影響を受けており、大規模なシステム投資がさらなる負担になる。大上氏は「現行のPASPYシステムで新たなサービスを実施したいと考えた際、関係会社との調整に時間がかかり、実現できるのが2~3年先で時代遅れになってしまいます。それに素早く対応できるようにするのは、我々が開発したシステムで運用していくしかありません」としたうえで、「もっとお客様がわかりやすく、使いやすい運賃制度に投資を割り当てようと考え、ABT方式を採用することになりました」と新システム開発に至った経緯を述べる。
NEC、レシップと新システム構築へ
ABT方式でクラウド上に各種情報を集約
広島電鉄では、システムの維持や、生活様式の変化に対応した柔軟な運賃制度の実現も容易な新たな方式の乗車券システムの開発に着手している。システム構築は、現在の交通システムの運賃収受やシステム運営で連携しているNECと、車載器を提供するレシップに依頼した。
新システムは、スマートフォンに表示させたQRコードや新たな交通系ICカードを認証媒体とするABT方式を採用する。利用者は、乗車・降車時に自身のスマートフォンに表示させたQRコード、または専用の新たな交通系ICカードを車載機へかざすとサービスが利用可能だ。ABT方式では、利用者のチャージ残高や定期券などの情報をクラウドサーバ側で保持・参照・更新し、機器側では高速な計算処理を行う必要がない。クラウドサーバを利用することにより自前でサーバを構築する必要が無くなるため、広島電鉄の支払いは月額のクラウド利用料のみで済み、コストも抑制できる。また、柔軟なシステム変更が可能であり、「コストメリットは、中長期的にはより鮮明に表れます」と大上氏は語る。
なお、現在、PASPYで導入している各種割引サービスは、すべて新乗車券システムに受け継がれる予定だ。新システムへの移行により、ダイナミックプライシングの要素を取り入れた時間帯や曜日別に変動した運賃など、利用者サービスをより充実させることができるとした。
ワンタイムのQRコードやICカードを認証に活用
MaaSアプリ「MOBIRY」との連携も見据える
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