2024年10月28日9:00
オーストラリアのMeeco、および大日本印刷(DNP)、三菱UFJ銀行は、2024年9月27日にオーストラリア大使館において、信頼できるデジタル空間構築のための日豪パートナーシップについての発表イベントを開催した。当日は、日豪の接続実証の発表、日豪パートナーシップのポイントと今後の展望に加え、三菱UFJ銀行がなぜ銀行として日豪接続実証に取り組むのかについて紹介した。
日豪クロスボーダー相互運用性WG発足
信頼性の高いデータ流通実現へ
DNPと三菱UFJ銀行は、個人のアイデンティティに関する情報を管理する「分散型ID」に基づいたデジタル証明書(Verifiable Credentials:VC)の利活用を目的として、オーストラリアの金融機関やシステム開発企業と実証実験を2024年5月に実施した。また、両社は、「日豪クロスボーダー相互運用性ワーキンググループ」を発足。豪州からはAustralian Payments Plus、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)、オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)に加え、「分散型ID」の管理・認証システムを開発するMeecoが参画した。
今回は、国内初の取り組みとして、ビジネス目的で、日本とオーストラリアを訪れる人のデータまたは個人情報を保護するデジタルIDプラットフォームを立ち上げた。これによって出張や留学、海外就労などで両国を訪れる人は安全な形で分散型IDネットワークにアクセスできるようになる。また、個人や企業の電子取引におけるなりすまし・改ざんを防止し、プライバシーを保護できるようになるという。
今回、分散型ID技術を提供するMeecoは、10年前に物理的な世界とデジタル世界がどう組み合わさっていくかを思い描いたという。 Meeco CEO 兼創設者 カトリーナダウ(Katryna Dow)氏は「まさに思い描いていたような世界が実現しており。デジタルトラストが現実に必要となって非常に重要な機会を我々にもたらしてくれていると感じています」と話す。ただし、その実現に向けては、データの安全性やプライバシーといった難しい課題も存在する。Meecoでは日豪間での信頼性の高いデータ流通の実現に向けてDNPとコラボレーションすることで、安全で信頼性の高い相互運用性を確保する。例えば、オーストラリアの人々にとって日本は人気の観光地となっている。旅行1つとっても見てもホテルや航空券の予約、ホテルへのチェックイン、ツアーの予約、レストランの支払いなど、デジタル化している。また、旅行以外にも医療記録診療、診療記録、教育通信、雇用、娯楽など、デジタルのIDが重要となる。そしてこのデジタルIDもやはり信頼性できるものが求められる。
「もしこのデジタルトラストを実装するツールが手に入れば、人々の生活も大幅に改善することができ、デジタルライフもより繋がりやすく、より安全で、便利にできるのではないかということを想像してみてください」(カトリーナ氏)
例えば、ヨーロッパでは、欧州委員会(European Commission:EC)が「European Digital Identity Wallet(EUDIW)」で検討している技術仕様があり、「2027年には、EU市民全ての人たちがこうした安全なインフラにアクセスできるようにするということを義務づけております。これは世界に対してモデルとして示すことになり、その状況で行っているDNPとのコラボレーションは非常に重要性な意味を持ちます」とカトリーナ氏は話す。Meecoは「分散型ID」の管理・認証システムを開発しており、信頼性・安全性・プライバシーを重視している。同社が設立された10年前にはDNPにより研究開発に対しての問い合わせがあった。現在、両社の研究は初期にあるが、三菱UFJ銀行のような金融機関が顧客の暮らしにデジタルトラストを導入すべく、先行者利益を生み出すような努力をしているとした。
国を超えた信頼確立し、アジアにトラストを広げる
DNP分散型ID管理プラットフォーム「CATRINA」提供
DNPの取り組みについては、AB センター 事業開発ユニット事業開発部第3グループ 岡本 凜太郎氏が説明した(参考記事)。近年、生成AIなどの技術が進化し、画像1枚から本人のなりすましができてしまう。例えば、本人になりすました画像を使って、オンライン上で口座開設が行われた事例がある。また、デジタルIDの詐欺被害、偽情報の拡散が活発化しており、「オンライン空間で信頼が失われつつあります」と岡本氏は話す。
日豪関係として、観光を見ると、2023年に61万人がオーストラリアから日本に訪れている。また、日本からオーストラリアへのワーキングホリデーでは、ビザ発給件数が過去最多となっており、まさに日本とオーストラリア間で人の往来が増えている。
例えば、日本に来日したオーストラリアの観光客のユースケースとして、日本のホテルでの予約時にカタカナや漢字の入力を求めるホテルが多く、入力に苦労するという。実際にカタカナで入力をした後に、ホテルに行って、本人確認の証明書としてパスポートを提示した際、入力したカタカナとパスポートのアルファベットが一致しないため、本人確認に時間がかかる課題がある。
また、日本に留学したオーストラリア人学生が在留資格認定証明書を取得する際、自身の銀行のスクリーンショットを提出するということを求められた。銀行の口座は非常にプライバシー性の高い情報であり、それをスクリーンショットで送ることは問題があるとした。また、データが改ざんされる危険性のある中、証明書の発行が行われている。
こういった例にとどまらず、医療、海外就労・留学などさまざまなシーンで、今もなおアナログのパスポートや証明書を提示しており、ユーザビリティも悪く、さらに検証性も低い状況だ。こういった状況を変えるため、分散型IDに基づくデジタル証明書の利活用を目的とした取り組みを行っている。
これにより、オーストラリアと日本間での信頼を確立し、移動、就労、医療、買い物、宿泊の利用などを便利にすることを目指している。日本とオーストラリアは時差が少ない点がメリットだ。さらに、日豪間にとどまらず、アジア圏で信頼を広げていきたいとした。
なお、DNPでは、分散型ID管理プラットフォーム を「CATRINA(カトリーナ)」と名付けたがそれはMeccoへの最大限の敬意であり、同プラットフォームを広げていくことへの決意だとした。CATRINAは、デジタル証明書を発行・検証するための基盤システム構築から、デジタルアイデンティティウォレットアプリまで、分散型IDビジネスに必要な機能をワンストップで提供するそうだ。
MUFG Trust as a Serviceを構想
デジタルアイデンティティウォレットは決済機能との繋ぎ込みも展望
三菱UFJ銀行がデジタルアイデンティティに取り組む理由として、銀行の信用力機能を新領域でも活用できるからだとした。佐田貴之氏は「デジタル社会における課題として、データをやり取りする相手が見えない、情報の信頼性を担保するプレーヤーがGAFAをはじとしたようなプラットフォームに集約されてしまっています」と課題の根本を述べる。EUなどではこうした課題の解決策として、官民を挙げて取り組みが進んでいる。日本でもトラステッドウェブの構築に向けた研究が進められているが、銀行が信用供給機能をしっかりと供給していくことが重要であるとした。
同行が今までも世の中に届けてきたこの信用供給機能と、DID/VCといったような先端的な技術を掛け合わせながら、「ユーザー自身が情報を管理し、選択的に必要なところに情報などを開示していく世界観を我々であれば貢献できるんじゃないかなというふうに考えています」と佐田氏は意気込む。その手段として、「TaaS(Trust as a Service)」、デジタルアイデンティティウォレットの提供を構想している状況だ。
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