2018年10月22日9:00
「フューチャーペイメント要覧」の第4章では、IC電子マネー誕生までの歴史、主要なプロジェクトの動向、世界のIC乗車券の動向などを90ページにわたり、取り上げている。今回はその中から世界各地で行われたIC電子マネーの歴史について一部を取り上げたい。
1990年代にさまざまなプロジェクトがローンチ
1990年代にヨーロッパ各国で自国の通貨に基づいて、独自に展開を図ったIC電子マネーをみると、1992年には、現在キャッシュレスが進む北欧のデンマークでのDanmontプロジェクトやフィンランドのAVANTプロジェクトといった取り組みが始まった。1994年には、中欧のオーストリアでQuick Linkプロジェクトがスタートし、1995年にはベルギーでProtonプロジェクトとイギリスのMondexプロジェクトがスタートした。1996年になると、ドイツのGeld KarteやイタリアのMiniPay、スイスのCashやスイス郵政のPostCardCash、ポルトガルのPMB、オランダのChipknipやChipper、スペインのMonedero4B、スウェーデンのCashといったIC電子マネープロジェクトが一気にスタートした。少し遅れて、1998年にルクセンブルクのMini Cashプロジェクトが、1999年にはフランスのMoneoプロジェクトがスタートした。
こうしたIC電子マネーは、単独のIC電子マネーカードとして発行されたほか、ATM・デビットカードやチェックギャランティカードなどにIC電子マネー機能が搭載されていった。また、現在のオープンループのオンラインプリペイドカードのように、一定額面のカードやバリューのリロードができないディスポーザブルタイプのIC電子マネーカードがプロモーション用として発行されることも多かった。
ドイツのGeld KarteやベルギーのProton、オランダのChipknip、スイスのCashなどのIC電子マネーの多くは、自国で発行されているATMカード機能やデビットカード機能を有するバンクカードのほとんどにIC電子マネー機能を搭載することに成功した。しかしながら、銀行、加盟店の両者におけるIC電子マネーの導入コストやオペレーションコストの負担が大きかったことや、消費者にとっても紙幣や硬貨といった現金を上回る格別のメリットを感じられなかったといわれている。
また、こうしたヨーロッパのIC電子財布プロジェクトのスタートがユーロによる通貨統合前であったため、それぞれの国でマルクやフラン、リラといった当時の通貨が用いられ、独自のICカードのスタンダードが採用されていた。ヨーロッパは統一通貨のユーロの導入により、紙幣や硬貨といった現金はユーロ圏内では国境を越えて使えるようになり、クレジットカードはVISAやマスターカード、デビットカードはMaestroやV-Pay、VISAエレクトロンなどの国際ネットワークによって国外で利用できるが、唯一コンタクトIC カードのIC電子マネーのみが規格(スタンダード)の違いにより、国境を越えて利用することができなかった。
ヨーロッパやアジアの展開の成果は?
こうした1990年代に導入されたヨーロッパのコンタクトICカードを用いたIC電子マネーは、その使い勝手の悪さから、利用が伸びず、デンマークのDanmontが2004年6月に、ルクセンブルクのMini Cashが2011年に、スイスのCashが2013年に、オランダのChipknipが2014年に、フランスのMoneoが2015年に、オーストリアのQuickが2017年にそれぞれクローズされ、ドイツのGeld Karteを除いて、ヨーロッパのコンタクトICカードを用いた大半のIC電子マネープロジェクトがクローズに追い込まれている。
なお、アジアでも1990年代後半から2000年代初めにかけて、シンガポールや韓国、日本、台湾、中国、タイなどでナショナルベースやローカルベースの独自のコンタクトICカードによるIC電子マネープロジェクトが展開されていた。シンガポールのNETSキャッシュカードや韓国のK-Cash、台湾のFISCキャッシュカード、タイのPURSEカードなどのプロジェクトを除いて、ヨーロッパと同様に多くのプロジェクトが中止に追い込まれた。