2024年4月25日8:00
熊本市交通局は、熊本市電において、2023年4月からクレジットカード等のタッチ決済とQRコード決済を運賃支払いに利用できるシステムを全車両に本格導入した。熊本市電は、三井住友カードが提供する公共交通機関向けシステム「stera transit」を活用して、一部車両でクレジットカード等のタッチ決済での交通乗車サービスの実証実験を進めていた。実証実験の結果、利用が見込めることが確認できたため、QRコード決済も含めた本格導入に踏み切った。今後もキャッシュレス決済手段の多様化とシームレス化を進め、利用客に対するサービス向上を図る。
全車両対象、ブランドも拡大
QRコード決済も導入
熊本市電のVisaのタッチ決済による実証実験は2022年7月7日から2023年4月24日まで実施された。当時、路面電車としては国内初のタッチ決済の導入事例だった。実証実験では、熊本市電の超低床車両6編成および普通車両10編成の計16編成にVisaのタッチ決済対応読取機を設置した。熊本市交通局総務課 課長 吉岡秀一氏は「スムーズに利用できることが確認されました。実証実験では対象が一部車両でしたので利用客数は想定を超えませんでしたが、全車両に投入すれば、利用は見込めると判断しました」と話す。
2022年7月7日から始めたタッチ決済の実証実験では、対応ブランドはVisaのみで、一部車両のみが実験対象だったが、2023年4月25日からの本格導入では、全車両に対象を拡大した。また、対応ブランドについても、JCB、American Express、Diners Club、Discoverも利用できるように拡大した。同年9月28日からは銀聯を追加。乗車時は何もせずに乗車し、降車時に専用端末にクレジットカードをタッチして、運賃を支払う仕組みだ。
さらに、QRコード決済も導入。対象ブランドは、PayPay、楽天ペイ、d払い、au PAY、Alipayとなる。降車時、乗務員にQRコード決済で支払うことを申し出て、QRコードを表示したスマートフォンを専用端末のカメラにかざして運賃の支払いを行う。
キャッシュレス決済の選択肢が増加
乗客にとっての利便性は格段に高まる
熊本市電が路面電車全車両へのタッチ決済とQRコード決済の本格導入に踏み切った背景について、吉岡氏は「クレジットカード等のタッチ決済やQRコード決済など利用者が増えているキャッシュレス決済の選択肢を増やすことで、格段に利便性は高まっていくと考えています」と話す。
熊本市電では、西日本鉄道グループの交通系ICカード「nimoca(ニモカ)」のシステムを導入しており、相互利用が可能な全国の交通系ICカードも含めて利用することができる。また、熊本市のバスなどで利用できる「くまもんのICカード」のような地域ICカード、モバイル定期券、現金などが利用できる。コロナ禍での利用割合は、定期券を含めて全国相互利用ICカードの利用率は約5割で、地域ICカードや高齢者向けのカード等で1.5割、残りの3.5割が現金等その他の利用者だった。
吉岡氏は「実証実験ではタッチ決済はスムーズに利用できることが確認され、QRコード決済は画面表示などで若干時間がかかるケースは見られますが、ショッピングなどで利用が拡大していますので、今後さらに利用者が増加していくのではないかと考えています。タッチ決済とQRコード決済の利用率を二桁に引き上げたいです。現金の扱いを減らすことで、業務の効率化などさまざまな効果が享受できます」と話す。
また、パンデミックの鎮静化で訪日外国人観光客が急速に戻り始めていることもあり、熊本市電では、キャッシュレス決済手段の拡充によって、誰もが使いやすい路面電車を目指すとともに、バスなどとの料金支払いのシームレス化を視野に検討を進めているという。
「手ぶら」「顔パス」の乗車も可能
AI顔認証決済の実証実験でも手ごたえ
一方で、熊本市交通局では、熊本市電における「手ぶら」「顔パス」で乗車できる顔認証の実証実験を2023年12月20日から2024年3月31日まで実施している。路面電車における顔認証の実証実験は全国初の試みだ。丸紅が運営するプラットフォームとアプラスの「BANKIT(バンキット)」またはレシップのモバイル乗車券アプリ「QUICK RIDE(クイックライド)」(熊本市交通局ではモバイル定期券を販売)を使用し、熊本市内を走る路面電車でAI顔認証決済を行うものだ。「BANKIT」を利用したAI顔認証決済の実証実験は、アルピコ交通の高速バスや富山地方鉄道のバスに続き3例目。
同実験のモニターは、「BANKIT」上の顔認証ミニアプリまたは「QUICKRIDE」を使って自身の顔画像を事前登録することにより、現金を使うことなく、手ぶらで熊本市電を利用することが可能だ。顔認証決済では、降車時に車両に取り付けられている顔認証用のタブレット型端末をのぞき込むだけで運賃を支払うことが可能であり、「顔パス」で利用できる。
吉岡氏は「熊本市電の実証実験では、その都度決済するパターンとモバイル定期券との連動を試しています。両方の利用者を合わせて150人程度に登録していただくのが目標で、その目標数値は達成しました。早朝や夜間などの条件でも、顔認証の精度に問題はなく、今後、コスト面を含めて総合的に検討していきたいです」と話している。