2020年8月19日8:54
国際送金ネットワーク「RippleNet」を提供するRipple (リップル)は、2020年8月18日に、日本における事業戦略を紹介する説明会をオンラインで開催した。同説明会では、リップル 国際事業部門シニアディレクターの吉川絵美氏が同社事業、およびサービス概要、国内における事業展開の現状と戦略について紹介した。
依然として国際送金は非効率?
RippleNetはシングルステップでリアルタイム取引が可能
リップルは2012年に創業した会社で、本社と開発拠点はサンフランシスコにある。現在は、世界に9つの拠点があり、日本ではSBIホールディングスとの合弁会社であるSBI Ripple Asiaを中心に展開している。国際送金のネットワーク「RippleNet」を開発し、300以上の金融機関が採用している。
リップルは、お金(価値)を自由に行き来できる世界を実現する「Internet of Value (価値のインターネット)」というビジョンを掲げている。ブロックチェーンの応用範囲は広いが、すべてのやりとりは価値のやり取りに行き着くとし、そのや取りの問題が解決されない限りは、ブロックチェーンも普及しないとした。
日本ではXPRがリップルと呼ばれることもあるが、リップルはブロックチェーンを活用して、国際送金の仕組みを金融機関を提供するBtoBのソフトウェア企業であり、暗号資産であるXRPを活用しているとした。また、リップルのエンジニアは、オープンソースプロジェクトの「XRP ledger」の継続的な改善のための開発に関与している。
現在、国境を超えた人の動きが活発している。移民の人口の年間成長率は9%となり、またビジネスにおいても国際送金は大企業がほとんどだったが、先進国の3分の1以上が海外とのやり取りを行っている。個人レベルのビジネスでも海外とのやりとりが当たり前になってきた。年間レミタンス送金総額は6,000億円にも及ぶ。中でも個人や中小企業の送金が増えており、過去30年間の送金額は13倍に膨れ上がっている。しかし、国際送金は非効率だとした。1つはスピードの問題があり、3~5日を要することだ。また、コストも高く、手数料だけで5,000円程かかり、為替の問題もある。さらに、国際送金の6%と言われる高いエラー率、コストの不確実性もある。
なかでも途上国の移民は、200ドルを送ると14ドルのコストが平均でかかる。レミタンス送金のコスト総額は、300億円に上ると言われている。また、銀行経由のコストをみると、日本は南アフリカに次いで高い数字となっている。
実際、従来の国際送金の仕組みは数十年前に作られたものだ。国際送金はコルレス銀行を通してSWIFTでやり取りを行う。間にコルレス銀行の中継が入るが、それぞれの中継プロセスで時間がかかる。また、送金実行前に総コストを確認することができない不確証性もあるとした。
この問題をブロックチェーンの仕組みを使って解決するのがRippleNetだ。送金と受け取り側の銀行をダイレクトにつなぎ、シングルステップでリアルタイムな取引が可能だ。スピードに加え、決済リスクの最小化、送金手数料をあらかじめ開示できる点も強みとなる。
RippleNetで共通APIに統合
オンデマンド流動性(ODL)によりさらなる効率化へ
また、送金業界では、銀行、ブロックチェーン、Alipayのような送金アプリ、PayPalなどのウォレットなど、数多くのネットワークがある。それぞれのネットワーク同士であれば問題ないが、異なった場合の相互運用性がないことが問題であるとした。RippleNetでは、インターレジャーのプロトコルによって、異なる台帳をつなぐことができる。共通APIにより、例えば米国からフィリピンに送金する場合、RippleNetのAPIで送金し、リアルタイムで双方向のメッセージングによるリアルタイム決済ができる。さらに、送金の最適化のために、オンデマンド流動性(ODL)の仕組みを提供している。暗号資産(XRP)をブリッジ通貨として活用することで、オンデマンドで返金されて、着金が行われる。ODLは、欧米からフィリピン、メキシコなどの経路ですでにローンチされており、今後日本を含めて拡大していきたいとした。
XRPを使う理由は送金、決済に最適な特性を兼ね備えているからだという。特に送金においては決済にかかる時間やスピードが短くなる。例えば、Bitcoin(ビットコイン)は平均10分、場合によっては1時間必要だが、XRPは3秒で終わり、1件あたりの手数料は0.0002ドルとなっている。また、ビットコインは1秒27件だが、1,500件の処理が可能だ。マイニングと違ったアルゴリズムを使うため、エネルギー消費量が微小であることも特徴であるとした。
グローバルでの事業戦略として、国際送金の分野は大きな市場だが、企業、マーケットプレイスの送金など、低額、高頻度にフォーカスしている。また、金融機関のインフラパートナーとして金融機関を支援している。そのうえで、幅広いネットワークをつくるのは既存の金融機関との提携が必要だとした。さらに、ODLの普及に注力。多くの市場に広げるためには、規制当局との連携が必要だが、ソリューションのインフラとして暗号資産取引所との接続連携、XRPの連動性向上もマーケットのプレイヤーと協力して進めている。
日本は今後数年が勝負
Money TapのAPIでPayPay、LINE Payとチャージ連携
日本の国際送金のニーズとして、低額・高頻度の送金が増えている。少子高齢化による外国人の労働者の増加に加え、入管法改正によって、より外国人労働者が増加する環境が整ってきた。また、海外への業務アウトソースが増加していること、個人、もしくは中小企業の越境eコマースの拡大もプラスの要因だとした。これに加え、現在はコロナ禍で停滞しているものの、外国人旅行客数も成長する分野で国際送金につながるとした。
日本でも移民への送金ニーズはここ10年で2~3倍に増加しており、引き続き成長が期待されている。吉川氏は、今後数年が勝負であり、倍々に伸ばしていきたいとした。国内では、SBI Ripple Asiaを通じた戦略として金融機関と提携しており、ベトナムやフィリピンなどの市場にフォーカスしている。
また、ODLの日本市場のローンチに向けての取り組みを進めている。国際送金取扱い累計額が1兆円を突破しているSBIレミットでは、タイのサイアム商業銀行、およびベトナムのTP Bankと協業し、Ripple Netを活用することで、日本で働くタイとベトナム人労働者とその家族に海外送金を提供している。ユーザーも高頻度で送金が可能であり、送金額も伸びているそうだ。
なお、国内の送金の一元化に向けて、RippleNetの技術を活用した送金の仕組みにより、国内送金の効率化・低コスト化を目指している。また、スマートフォン用送金アプリ「Money Tap(マネータップ)」により、国内外の送金が一元化されたクラウドベースのプラットフォームで処理できるという。例えば、Money TapのAPIを通じて、PayPay、LINE Payとのチャージ連携を実現させている。今後も連携する決済手段は増やしていきたいとしている。
価値のインターネットの実現に向けては、RippleNetに加え、Xpring(スプリング)の取り組みがある。スプリングは、XRPを活用して開発者のためのオープンソースの送金プラットフォームを構築可能だ。法定通貨、暗号資産、トークンなど、価値を持つものが自由に行き来できるためのツールを開発できる。例えば、ゲームプラットフォームエコノミー、ウェブマネタイゼーション(マイクロペイメント)といったユースケースも生まれている。
さらに、さまざまな送金ネットワークと通貨に対応し、グローバルな送受金プロセスをシンプルにする、ユニバーサルな送金 ID「PayID」を発表した。PayID は、銀行口座、銀行支店コード、クレジットカード番号などよりも、認識しやすい ID を使用し、さまざまな送金ネットワークでの送受金を可能にすると発表されている。現在、数十のパートナーと実際の運用に向けて協議しており、Peer to Peerの送金やサブスクリプション型の支払いなどで利用可能だ。
そのほか、2018年にはUniversity Blockchain Research Initiative(UBRI)を立ち上げ、世界30以上の大学を支援している。日本では、東京大学経済学部と、京都大学総合人間生存学館と提携し、ブロックチェーンの研究を支援しているそうだ。