2011年6月13日8:00
英国の政府向けカードソリューションとは?
GPCにより公共部門の数多くの課題を解決
世界では、米国、英国、韓国を始めとする国々の政府機関が、カード決済を導入することで行政の効率と透明性を高め、コスト削減を実現している。ガバメントソリューションは全世界では一般的になっており、2,000以上のプログラムが展開されている。政府による決済カード利用としては、旅費カードや物品購買用のカードなどが使用され、また政府から補助金などを支給、給付する場合には、プリペイドカードが活用されている。ビザ・ワールドワイド(Visa)では約20年にわたり政府向けソリューションを展開。米国のスマートペイと並んで同社の政府向けプログラムとして有名なのが英国のGPC(ガバメント・プロキュアメント・カード)だ。同プログラムについてVisaヨーロッパ ガバメントサービス ヘッドのジョナサン・ホールデン氏が解説した。
GPCは英国で12年の実績
年間取引件数は660万件、年間支出額は10億ポンド
英国においてGPCは12年間にわたって実施されており、年間取引件数は660万件、年間支出額は10億ポンドとなっている。同プログラムはカードだけに留まらず、データやソフトなど複数の技術が網羅されている。また、市民向けのさまざまな資金の給付に使われているソリューションもある。これらのサービスを提供している担い手は銀行である。
GPCにより公共機関は小額の物品を購入するプロセスを簡素化できる。また、支払いを効率化することができ、事務処理、確認作業、複数の承認作業を減らすことで時間短縮を図ることが可能だ。さらに、在庫を削減するとともに不正利用のリスクを最小減に抑えることができる。
GPCは中央政府以外にもさまざまな公共機関が活用している。例えば、学校などの教育機関、医療機関、警察・消防・救急、慈善団体・NPO、地方自治体などだ。
コスト削減額は1億8,600ポンド
CO2を658トン削減
GPCの2009年末時点での実績としては、各公共機関と結んだ契約数が1,719件。カード会員数は14万1,693人で、年間支出額は10億ポンドを超える。なかでも強調したいのが取引件数660万件とコスト削減額の1億8,600万ポンドである。
Visaでは、通常の物品の購入にあたり、紙ベースで行った場合とカードを利用した場合、トランザクションのコストがどの程度下がるのかを英国政府から依頼された。その結果、1請求書あたり28ポンドのトランザクションのコスト削減が可能であることが分かった。この28ポンドを取引件数である660万に掛けると最終的にコスト削減額として1億8,600ポンドが算出された。また、これに加えて紙ベースの事務処理と比較するとCO2を658トン削減できるという。
英国政府の課題としては、新たに誕生した英国の連立政権のため、負債の削減が最優先課題となっていた。政府から各公共部門に2002年から2011年の間の支出額を62億ポンド削減するように指示が出た。また、2014年~2015年にかけてさらに810億ポンドの削減を求めている。
さらに、行政コストを34%削減し、2015年までには年間の削減額を59億ポンドまで引き上げていく目標も挙がった。これを実現するためには、自動化ツール、データのサポートツールの導入により支出の管理が必要となった。これまでGPCは、効率化の向上を実証しており、英国の新政権誕生の後も継続して利用されている。
英国では徴収の仕組みも課題であったが、決済を電子的に行うことで、一部の部門で地下経済を50%減らすことができるとの結論もある。支払の遅延も大きな問題となっており、2009年末までに中小企業の多くが倒産した。そして、この理由の多くが、支払の遅延によるものであったという。英国政府はこのような課題を踏まえ、迅速な支払いを行う政策を打ち出した。契約上は30日の決まりであっても10日以内に支払を行うという取り組みを実施。また、連立政権においては、納入業者への支払いを5日以内に短縮しており、GPC を使えば、納入業者は4日以内に支払を受けることができ、キャッシュフローを改善することが可能だ。
最後は、公的資金に対する信頼性の向上であり、国民の信頼を高めるために透明性の高い報告が必要となる。英国政府では、政府の公共機関による支出について透明性を高めるため、公開する施策をとっており、これを実現する仕組みとしてGPCが活用されている。
支払の電子化により公共機関だけでなく
カード会員やサプライヤーにもメリットをもたらす
英国のある銀行における「支払」の実態として、発行する請求書のうち96%が5,000ポンド未満の小額となっている。また、紙による手続きを行うと事務管理の労力がかかり、コスト負担も大きくなる。また透明性や説明責任も弱くなる可能性がある。
GPCにより、紙で行われている事務処理を電子的に行うことでコスト削減を図り、透明性とアカウンタビリティの強化を図ることが可能だ。加えて、請求処理の自動化、サプライヤーに対してのキャッシュフローを改善できる。
GPCは公共機関、カード会員、サプライヤーにとってさまざまなメリットをもたらす。例えば、公共機関では処理負担の軽減・効率化、書類の削減や単純労働の低減などである。カード会員は権限移譲や調達プロセスの利便性とスピードの向上など、サプライヤーはキャッシュフローの改善などが挙げられる。
「徴収」に関しては、市民、企業の双方が政府への支払いにカードを使うことができる。公共部門でカードを導入する機会としては、徴税、家賃、罰金・裁判費用、駐車料金・高速料金、学校給食/遠足・修学旅行などがある。
公共部門のカードによる「給付」の機会としては、年金、育児手当、失業、住宅などがある。同分野についても公共分野の明らかなメリットとして処理コスト、営業コストの削減、現金や小切手を扱う上でのセキュリティ対策の改善などが挙げられる。また、市民にとっても給付金を迅速に受け取れるといったメリットがある。
関連データへの簡単かつ迅速なアクセスにより
報告とコンプライアンス管理も実現
カギになるのは、報告とコンプライアンス管理であり、Visaによる一連の報告サービスにより、関連データへの簡単かつ迅速なアクセスを実現する。カード会員にとっては明細書と経費報告書を出すことができ、会計の突き合わせを迅速に行うことができる。財務管理者にとっては日常的にカスタマイズされた所定の財務データを送ることができる。調達担当にとっても、データから優良業者を選定でき、どのサプライヤーならば交渉が実現できるかを見極めることが可能だ。また、監査担当者はデータマイニングのツールを利用して、税務報告書や受領管理を行うことができる。
Visaは同分野で20年以上の実績を築いてきた。英国では12年前からGPCを展開しており、それ以外の国でも豊富な経験を有している。Visaは、全世界で政府のユニークなプログラムをサポートできるユニークな立場にある。日本の政府機関は、2011年3月に起きた未曾有の震災と津波による被害からの復旧、復興に向けて、さらなる行政効率が求められてくると思われる。景気回復において重要な役割を果たすGPCの取り組みは、国内においても大いに参考になりそうだ。