「新しい決済の可能性を探る」事例5 中国銀聯(China UnionPay)

2010年7月29日 07:49

中国人観光客の脅威の消費ポテンシャルが流通小売を救う
観光ビザの解禁、アクワイアラの増加で銀聯導入加盟店が急増?

7月から個人の中国人向けの観光ビザが大幅に緩和されたことや、これまで三井住友カードが単独で行ってきた加盟店開拓業務が他社に開放されたこともあり、国内での銀聯の利用がさらに拡大すると期待されている。都内の家電量販店、百貨店、ホテルなどの多くが消費意欲旺盛な中国人の受け入れ態勢を強化。地方都市でも銀聯決済を導入する加盟店は増えつつある。

国内の加盟店は1 万8,100店舗

2009年度の売り上げは240億円

中国銀聯は2002年に設立された、中国での銀行間決済ネットワーク運営会社。90カ国の国や地域の227万店で利用可能だ。銀聯カードは、中国の銀行が発行するキャッシュカードやクレジットカードに銀聯ブランドが付与されたカードで、すでに中国国内では21.7億枚以上が発行されている。ショッピング時に口座残高をオンラインで確認して行うデビットカードがほとんどだが、クレジットカードも約8,000万枚発行されている。日本国内でも三井住友カードの「三井住友銀聯カード」、トラベレックスの「銀聯キャッシュパスポート」、「上海トラベルカード」、中国銀行の「中国銀行東京支店銀聯デビットカード」、三菱UFJニコスの「三菱UFJニコス銀聯カード」が発行されており、中国への渡航者などが利用している。

加盟店に貼られる銀聯のアクセプタンスマーク。今後は地方などでも目にする機会が増えると予測される

6月まで単独で加盟店開拓を行っていた三井住友カードによると、2010年6月現在の加盟店は1 万8,100店舗。2009年の銀聯の決済金額は240億円を記録した。2009年7月、日本政府が年収25万元(約240万円)以上の制限付きで中国人観光客への個人旅行を解禁したこともあり、前年の130億円を大幅に上回った。

消費の低迷による売上ダウンが深刻な日本の流通業だが、こと中国人に対しての売り上げは順調だ。都内の百貨店や家電量販店では免税コーナーの近くに、中国人観光客に人気のある商品を配置。レジや販売員には中国語が話せるスタッフを配備している。中国人の購買動向として化粧品、炊飯器、ゲーム機、オーディオ、腕時計などをまとめ買いする傾向がある。中には10個、20個程度の商品をまとめて購入する客もいるそうだ。

地方都市でも銀聯の受け入れが進む

ビザの緩和で1,600万世帯が来日可能に

ある百貨店では数年前から銀聯による決済を導入しているが、平均で4~5万円、店舗によっては10万円以上に及んでいる。三井住友カードによると、百貨店では平日などの比較的来客数が少ない日に中国人の団体旅行者などが訪れれば、一日の売り上げの多くを占めることもあるという。店舗全体の売り上げにおいても銀聯決済の貢献度は高い。百貨店や家電量販店の多くは旅行代理店などを通して、1万円以上の利用で1,000円分の割引を受けられるクーポン券を定期的に配布するなど、中国人観光客の取り込みに力を入れている。

また、中国映画「非誠勿擾(フェイ・チェン・ウー・ラオ)」の舞台となった北海道など、地方都市でも銀聯の受け入れ態勢を強化するところは多い。

日本政府観光局(JNTO)によると、今年6 月に日本を訪れた中国人は前年同月比86.3%増の10万4,237人と大幅な伸びを記録。6月としては過去最高の数字となった。その理由としてJNTOでは新型インフルエンザの影響があった前年からの回復、訪日旅行の宣伝効果、個人観光旅行の需要増、好景気が背景になったと発表している。また、訪日客の累計では1~6月としては初の70万人を突破。過去の記録から20万人以上の増加となっている。

7月1日からは、これまで年収25万元以上でなければ給付が認められなかった個人観光査証(ビザ)を、年収6万元(約78万円)以上、もしくはゴールドカードを保持していれば給付可能とした。これまで北京、上海、広州の3都市に限定していた取扱公館も中国全土7公館に拡大。これにより、1,600万世帯の家族が来日可能となり、日本の流通店舗などはさらなる売上アップが見込めると期待している。

三菱UFJニコスがアクワイアリングを開始

来年の春節までには銀聯が「日本旅行カード」を企画

7月1日には三菱UFJニコスが加盟店開拓の開始と今秋からの銀聯カード決済サービスの提供を発表。今後3年間で3万加盟店の開拓を目指すとしている。また、他の銀行系カード会社の参入も噂される。

観光客用に用意されたパンフレット。銀座や秋葉原などを紹介

先行する三井住友カードでは、「今現在中国人観光客が訪れている主要な地域・業種には、おおむね導入しております。しかし個人旅行ビザの解禁・条件緩和により、今後個人旅行者が増加すると、訪れる地域や利用するお店の業種なども変化してくると考えられ、銀聯ニーズのある未開拓分野はまだ充分にあると考えております」とコメント。銀聯はシングルアクワイアリングが基本となるため、カード会社による加盟店開拓は激しさを増すことは間違いない。

ちなみに、銀聯の決済時には6ケタのPIN(暗証番号)入力とサインが必要になる。百貨店や家電量販店の場合、クレジットカード決済はPOSで行っているが、銀聯カードの場合は免税コーナーでCCT端末を用いて行われることが多い。CCT端末は当初、パナソニック製のINFOX端末だけが対応機種だったが、NECインフロンティア、東芝テックなどが銀聯に対応。今後はINFOX端末以外の銀聯対応も行われるはずだ。

7月16日には日本の国土交通省 観光庁と銀聯が中国人の訪日旅行を促進するための覚書を締結した(関連記事)。中国銀聯ではゴールド会員向けに2011年の旧正月にあたる春節までに「日本旅行カード」の企画を行うなど、銀聯を巡る国内の動きは活発化している。いずれにせよ、今年下半期の銀聯をめぐる動きからは目が離せないだろう。

↑前の記事「52%の市場シェアを誇る中国最大のオンライン決済サービス『Alipay』 中国人のポテンシャルを狙い、国内企業での採用は加速?」

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