【決済会社各社に聞く】クレジットカード不正利用の実態とセキュリティ対策の現状と展望(下)

2022年3月25日8:00

最新技術がカードを変える
高いセキュリティもカードの魅力の1つ

――フィンテック(FinTech)の世界は日々進化を続けています。次世代の決済手段について、皆様の今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。朝比奈さん、お願いいたします。
朝比奈:弊社としてはプラスチックカード、ICカードの強化ということにとどまらず、たとえばウォレットにカードを取り込んでいただくなど、これまでの形にとらわれないサービス展開を検討しているところです。最近は券面にカード番号がないデザインのものなどもあります。私どもも、プレミアムプロダクトでそういったカードを出しております。私どものお客様は、単なる決済手段としてだけではなく、私たちの提供する特別なサービスや体験等を求めてご入会、ご利用いただいています。今後もアメリカン・エキスプレスで提供するそういった特別な体験と、お客様に安心してカード決済をご利用いただける私たちのセキュリティ、両方の側面の取り組みを充実させていきたいと思います。とりわけ、不正利用については国境を越えて複雑化しておりますので、そういったことに対応するため、グローバルでの知見やデータを活かした対策を立てていく予定です。また、特典などに比べて、お客様の意識が後手に回りがちな、安心・安全面の取り組みについても、その大切さを引き続き発信し続けていければと思います。

――ありがとうございます。では田中様、お願いいたします。
田中:カードに新しい技術を採り入れることは、セキュリティの向上などカードの機能そのものを向上させるという意味も大きいですが、ユーザー体験や商品性を高めるという点でも大いに意味があると思います。
 
Visaがグローバル市場において展開を考えている新しいサービスとしては、たとえば、EMVCoから2019年9月に公開されたSecure Remote Commerceの「Click to Pay(SRC)」というものがあります。以前、一部の地域で展開していたVisaチェックアウトと同様のサービスです。それから、Visa Pre-Dispute Servicesというものがあります。アクワイアラ様とイシュア様がカードの取引情報だけでは伝わらない詳しい情報をやり取りできるようにすることによって、不正取引への対応精度を向上させたり、あるいはユーザー体験を向上させたりできるのではないかと考えています。
 
AIについては今後活用が必須になってくると思います。セキュリティの面では、オーソリや不正検知の場面でのスコアリングなどに活用してシステムの精度を上げ、弊社のエコシステムに参加しているすべての皆様にメリットを提供していきたいと考えています。

――ありがとうございました。野泉さんはいかがですか。
野泉: ダイナースクラブ会員の特性は他社様と違うところがございますので、ご利用によって変にセキュリティを強化すると、売上が阻害され、お客様にも迷惑がかかることになると思っております。過去にそういう繰り返しをしておりますので、私どもとしては両方のバランスをとって商品開発、セキュリティ開発をしていきたいというのが基本的な考え方です。

ただ、ナンバーレスや位置情報を確認できるカードが人気になっているというのは、国内のお客様のセキュリティに対する意識が高まっていることの証左だと思います。したがって、そういう取り組みを行っているカード会社が最終的に選ばれていくということも十分理解した上で、判断していくことが求められます。

私どもはEMV3Dセキュア2.0、2.2の導入を進めておりますし、D-PAS Connectという、より複雑な暗号化を施した次世代型多機能ICチップ(生体認証等)の開発なども進めております。Verify+というのは不正配送先住所のデータベースをオンライン化するというもので、Discoverグループ全体で活用することを考えています。

そのほかのセキュリティ強化の取り組みとして、弊社ではコンパニオンカードというものを発行しております。ダイナースクラブカードの補完機能としてMastercardの機能を付けて発行しているものです。プレミアムカード会員の実に90%以上がこのコンパニオンカードをご利用いただいています。従来、ダイナースクラブとしての取引の範囲で悪用判定をしていたものが、Mastercardの決済機能によって、1人のお客様に対して2つの視点で悪用のチェックができます。これは結果論ではあるのですが、悪用の検知精度を上げる取り組みになりました。新たなサービス・商品を投入するにあたっては、片方でセキュリティの目線でよくチェックする必要があるという代表例だと思っております。

それから昨今私どもが頭を痛めているのが、ビジネスカード、コーポレートカードの悪用です。個人カードの不正検知精度はある程度上がってきておりますが、最近他社様も積極的に展開しておられるビジネスカードはあくまで個人ではなくビジネスの利用ですので、仕入れ的な利用も発生します。こういったところの悪用検知をどのようにやっていくのか。走りながら進めるしかありませんが、今後の課題といえます。

ダイナースクラブ会員には法人オーナー、個人事業主、会社の代表者の方、役員の方が非常に多いですので、ビジネスで利用されるケースも多いです。個人とビジネスの、公私の区別というのは今後の大きな課題だと認識しております。

――アメックスもビジネスカードを発行されていると思いますが、このあたりはいかがですか。
朝比奈:お聞きしていて非常に興味深く感じました。個人カードとビジネスカードの利用パターンには如実に違いがございます。計測方法によって結果はきちんと変わってまいりますので、そういった運用を行って、ビジネスカードのほうでも適正な範囲内の不正検知率、防止率をキープしております。ビジネスカードは個人カードに比べて発行数も少ないですので、被害件数、被害額ともに低く抑えられております。

フリクションレスな取引実現のためには
十分な情報の提供が不可欠

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