2013年10月23日7:00
国内のポイント、マイレージ市場の動向と今後の注目点は?
発行額は今後も緩やかに成長
野村総合研究所の実施した調査によると、2011年度の国内11業界における主要企業のポイント・マイレージの最小発行金額は9,770億円に達しており、2017年度には1兆786億円に到達すると予測している。今回は、ポイントを取り巻く動向と今後の方向性について、同研究所 コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント 安岡寛道氏、同上級コンサルタント 冨田勝己氏に話を伺った。
共通ポイントは社会インフラに成長
消費者が使うカードの選別傾向が顕著に
――まずは、現在のポイントやマイレージについての注目ポイントについてお聞かせください。
安岡:共通ポイントは社会インフラになってきています。ただ、ポイントだけの成長自体は成熟してきており、今後は、単なる共通ポイント事業者間の戦いではなく、いろいろなサービスを形にしていくフェーズに入ると思います。また、アカウント数をみると「Ponta」は5,700万人程度ですが、4,677万人の「Tポイント」はアクティブ・ユニークユーザー数を公表しています。歴史もあると思いますが、レンタルビデオのTSUTAYAの会員証から始まっているので、Tポイントの方がユニーク性は高いはずです。また、Yahoo!JAPANのサービスでTポイントだけを基本的に付与することになったヤフー(Yahoo JAPAN)の「Yahoo! JAPAN ID」についても単純なIDだけになると1億以上あり、現実的でないため、アクティブな部分だけを公表しているようです。
Tポイントを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブとヤフーのシステム統合が2013年7月に完了し、ネットとリアルの連携が今後加速していくと思いますが、現状、共通ポイントで「O2O(Online to Offline)」を形にできているところはほとんどありません。楽天は「楽天市場」を中心としたネットが主戦場であり、「Rポイントカード」によるリアル展開もこれからという状態です。
冨田:ポイントを利用する消費者の変化からいうと、使い分け、あるいはリテラシーが高まっていると思います。数多くの人が複数のポイントカードを持っていますが、自分が貯めるものは財布に入れるようにしていて、“それ以外はいらない”といったような見切りをつけられるようになってきたのが大きな変化です。そのため、良く使う共通ポイントならまだしも、あまり利用しないポイントは見向きもされなくなってきました。貯めているポイントは10種類、20種類と数多く出ていますが、使うカードは選りすぐられています。
安岡:私も数多くのカードを持っていますが、使うカードと使わないカードを分けるようになりました。消費者は使うカードを選別していると思います。
マイレージ利用者の傾向はここ数年変わらず
「楽天カード」「リクルートカード」が自社サイトと絡めてPR
――以前、「陸マイラー」などで話題を集めたマイレージの動向についてはいかがでしょうか?
冨田:ANAやJALといったマイレージ利用者の傾向としては、基本的にはここ数年は変わらないです。2003年頃から「陸マイラー」が話題になり、会員数も増えていきましたが、あくまでもマイル好きは飛行機に乗る方が中心であり、その傾向は変わっていません。一方で小売・流通でのポイントプログラムに関しては、ポイント利用者の裾野が2010年頃までは広がってきましたが、この1~2年で使われるものと使われないものとが選別されるようになってきたと感じています。
安岡:マイレージについては、会員数の伸びも極端には増えていません。流通系の共通ポイントの伸びに比べると見劣りしており、搭乗利用のマイルの交換先の掃出しがなければ電子マネーとなることも多いでしょう。また、今後、航空便が極端に増えるわけではないので、現状のままならば、交換先は劇的には増えないでしょう。
冨田:一方で、スクエアの「Square」、ペイパルの「PayPal Here」のような、路面店や軒先でも使えるスマートフォン決済がポイントと絡めて裾野を広げていく可能性があります。例えば、ヤフーとカルチュア・コンビニエンス・クラブがTポイント加盟店開拓に向けたタブレット端末「T-UNIT 3」を出しましたが、将来的には、決済も想定しているように見受けられますので、現金不要でポイントも貯まる世界が訪れる可能性もあります。
――クレジットカードのポイントの動向や市場についてはいかがでしょうか?
安岡:やはり各カード会社が脅威に思われているのは楽天カードが発行する「楽天カード」であり、ポイント大好き層には受けています。最近では、リクルートライフスタイルが発行する「リクルートカード」もテレビCMなどで積極的に告知を行っています。クレジットカードについては、高還元のクレジットカード、富裕層に向けたカード、提携主体のカードなど、利用者のニーズは分解されてきた感はあると思います。
冨田: クレジットカードのポイント市場については、ECサイトでのクレジットカード利用率が高まると思いますので、それに引っ張られる形で伸びると考えられます。ただし、全体的な付与率は千差万別で、それほど変わらないと感じています。また、クレジットカードを利用してもポイントをそれほど気にされない方も多いため、意識のさせ方には工夫が必要です。今後は自社ポイントにこだわらない、例えば他社の共通ポイントが貯まるようなクレジットカードが数多く現れることも予想されます。
ポイントを単なる値引き代わりではなく、効果的なマーケティングツールとして使いこなす企業も存在しています。例えば、ANAやJALのクレジットカードは、航空ヘビーを増やすためのカードであり、楽天も楽天市場を利用してもらうために楽天カードを活用し、その中でマイレージやポイントが効果的なインセンティブとしての役割を果たしています。その上で、他社での利用についても分析できるメリットがあります。
直近ではコンビニエンスストアとECが市場を牽引
ポイントやマイルを活用した消費喚起に期待
――今後、ポイント市場を牽引する業界についてはいかがでしょうか?冨田:
規模の伸び率という観点では、直近ではコンビニエンスストアとECになると考えられます。コンビニエンスストアでのポイントカード提示率は増えるでしょうし、また、成長し続けているEC利用ではクレジットカードのポイントが付与されます。さらに、ECとリアルを連結する形でポイントが付くことも大きいです。今後は、楽天の「Rポイントカード」のリアル展開が軌道に乗り、ヤフーとCCCもデータ連携して、名義が紐づいただけではなく、プラスアルファの価値をつけられるようになれば面白いと感じています。逆に独立系のポイントが市場を牽引するのは難しいかもしれません。
安岡:ただ、長野の「ブルーポイント(BluePoint)」等のように、ある領域で強い共通ポイントも存在しています。独立系については、最近では、ポイントだけでは靡かなくなっていますので、実際に新たなサービス提供のため、その仮説を立てて、検証していかないとそれだけでは立ち行かなくなってきています。
冨田:普及に向けての課題という意味では、共通ポイント事業者は消費者に保有してもらいたいのももちろんですが、“加盟店がどれだけ喜ぶサービスを提供できるか”が一層重要になると思います。ポイントを使った効果的な販促、顧客分析に基づいた品揃えの提案など、CRMコンサルティングに近い支援がどれだけできるのかが、普及のカギになると思います。すでに共通ポイント事業者もそれを認識しながら取り組んでいますが、まだ完全と呼べるまでには至っていません。
楽天の「Rポイントカード」では、競合他社よりも安い手数料で営業がなされているようです。今後は、それに対抗するために手数料率などのコストで勝負することも考えられます。また、提携社にとっては、複数の共通ポイントを同時に導入する相乗りも考えられるかもしれません。例えば、トヨタレンタカーがJALとANAのマイレージの相乗りを行っているように、マルチブランド化の動きが考えられます。
安岡:これから消費税が5%から8%に上がりますが、消費喚起と経済の活性化に向け、軽減税を特定分野や世帯(年収)毎に別々考えて複雑なシステムで対応するのではなく、個人的には日本人の多くが持っているポイントカードやマイレージ等に交換できる政府が発行するポイント(以前のエコポイントの消費税還元版)で対応することも想定できると思います。ポイントの重要な点は継続性がある点であり、ポイントを還元すれば次の購入につながる可能性も高く、新たな消費喚起も期待できます。
今後のポイント市場は緩やかに成長
寄付に関するポイントの広がりに期待
――野村総合研究所様では、国内11業界における主要企業が、2011年度に発行したポイント・マイレージなどの年間最少発行額を推計し、2017年度までの国内におけるポイント・マイレージの発行額の予測を行われていますね。
冨田:弊社が出している数値は、あくまでも業種を限定したものであり、最少発行数値です。ポイントの発行額は、年々堅調に増えていますが、小売り流通で出せるポイントの数は1~2%程度が基本であり、1.5兆円が3兆、5兆になるのは難しいと思います。そのため、今後も緩やかに市場は成長すると考えています。
ポイントの利用シーンの広がりとともに、金銭的な価値を持たないポイントが増えています。福利厚生やクラウドソーシング的なポイントは増えていくでしょうね。また、ポイント発行額の量よりも、費用対効果を意識した質的な向上が導入事業者にとって重要視されていくと思います。
安岡:例えば、寄付に交換できるポイントはユーザーからも受け入れられています。震災を支援するポイントや地域を支援するポイントのような寄付的なものについては、少額の付与・還元でも消費者の満足感は結構高いです。将来的には、少子化の是正を支援するポイント、処分されそうなペットを支援するポイントなども考えられ、今後もこのようなポイントサービスが浸透することに期待したいですね。