2023年10月3日8:00

国内でもスマートフォンなどの汎用デバイスを非接触決済端末として利用するサービスが注目を集めている。サービスを商用化したフライトシステムコンサルティングSquare(スクエア)、サービス提供の準備を進めるNTTデータの動きに加え、日本カードネットワーク(CARDNET)も来年の商用化に向けて複数加盟店でパイロット運用を行ってきた。今回は2021年から「Tap on Mobile(タップ・オン・モバイル)」のパイロット運用に参加する「グランズー」に話を聞くとともに、同サービス提供に向けた進捗についてCARDNETに説明してもらった。
※汎用端末(COTS)を使用した決済については、JCBが「Tap on Mobile」、Visaが「Tap to Phone」、Mastercardが「Tap on Phone」でサービスを提供しており、CARDNETは「Tap on Mobile」の名称で展開している。

グランズ―店舗での決済。スマートフォンのNFC機能を利用して決済を受け付け。左が横田典行氏

グランズ―はマルチ決済に対応
省スペースで利用でき持ち運んで決済も可能に

グランズー(東京都文京区)は、神田川沿いに店舗を構えるクラフトビールのビアバーだ。同店舗では2021年からスマートデバイスを決済端末に活用する「Tap on Mobile」のパイロット運用に参加している。市販の Android スマートフォンに CARDNET が提供する「Tap on Mobile」アプリケーションをインストールすることで非接触決済サービスを受け付けている。

神田川沿いに店舗を構えるグランズー。店内に加え、テイクアウトの需要もあるという

当初はQUICPay /QUICPay+、WAON、nanaco、楽天Edyといった電子マネー決済に対応していたが、現在はJCBをはじめとする国際ブランド決済(JCB、Visa、Mastercard、American Express、Diners Club、Discover)、QRコード決済(以下、コード決済)にも対応するなど、1台のスマートフォンでマルチ決済に対応している。

「Tap on Mobile」では、NFC(近距離無線通信)機能を搭載した店舗のスマートフォンと、非接触ICチップの付いた利用者カード、スマートフォンをタッチして決済を行う。導入当初は決済がスムーズに行えないこともあったというが、「現在は支払いに時間がかかることもありますが、読み取りできないケースは徐々に改善されています」とグランズーの横田典行氏(ジップザフューチャーズ 代表取締役)は話す。CARDNET 経営企画部 事業企画1グループ 主事 會田悠太郎氏は非接触決済の読み取りについて、「お客様のスマートフォンのアンテナの位置もあるので、アプリ上で端末のリーダの位置を表示するなどUI(ユーザーインターフェース)を工夫し、タッチに悩まれないようにしています」と説明する。

横田氏はスマートフォンを決済端末に活用するメリットとして、物理的な端末を設置しないことにより省スペースで利用できることと、持ち運びできる機動力を挙げた。グランズーではテイクアウトの需要もあるため、店舗の外で商品を渡し、そのままスマートフォンで決済を受け付けることが可能だ。横田氏は「店舗の外で会計することも多々ありますので、動きやすくなります」と述べる。

カードに加え、スマホ決済にも対応。読み取り精度も向上している

一方で、据え置きの端末と比べ、紙のレシートが出力されない点は課題として挙げた。CARDNETではメールアドレスやQRコードなどでレシートを送付できるサービスを提供しているが、会計を素早く済ませたい顧客の中にはメールアドレスの入力が面倒だと感じる人もいるそうだ。

現状、グランズーで利用される決済手段はクレジットカードが多く、コード決済も伸びている。キャッシュレス決済の利用者は年々増えているが、現金ユーザーも一定数存在する。

なお、グランズーでは、PAX製の決済端末「A920」のシステムも導入しており、並行して使用している。今後はサービスプラットフォーム「tanceモール」を利用してサービスアプリケーションの配信も行う予定だという。

CARDNETは「Tap on Mobile」商用化に向けて準備
マレーシアのSoft Spaceと協業してタッチ決済実装

CARDNETでは、「Tap on Mobile」を実際の店舗で利用してもらう実証実験を 2021 年 2 月に開始した(2021年10月からはパイロット運用に移行)。その後、コード決済を追加し、2023年7月からは国際ブランドのタッチ決済へと対象を広げた。国際ブランド決済では、マレーシアのSoft Spaceと協業し、タッチ決済機能(EMVコンタクトレス)を実装している。會田氏は「現在は十数店舗でパイロット運用を行っており、業種や決済シーンに応じた決済に耐えられるか検証しているフェーズです」と説明する。

CARDNET 経営企画部 事業企画1グループ 主事 會田悠太郎氏

COTS(汎用端末)を活用した決済については、「電子マネーはレギュレーションも検討している最中であるように、全体的に黎明期と捉えています。国内においても国際ブランドの基準も明確に定まっておりません」と會田氏は話す。

CARDNETのサービスの特徴として、Soft Spaceの「PCI CPoC」に対応したSDKを使用しているが、UIは独自に作り込んでいる点が挙げられる。また、国際ブランドはもちろん、電子マネーやコード決済の統一感あるインターフェースにしている。會田氏は「1つのアプリでマルチ決済に対応しており、認識している範囲では一番決済手段は充実しています」と自信を見せる。

例えば、電子マネーの中でも運用テストが厳しいとされるJR東日本の「Suica」もパイロットをクリアした。また、コード決済も主要なブランドに対応し、1つのアプリで複数の手段に対応可能だ。

サービスのローンチは2024年春以降を予定している。すでに決済の運用は成果を感じているが、加盟店のバックオフィス的な機能、他のPOSアプリとの連動など、実際の商品化の準備を慎重に進めている最中だ。

スマートフォンのNFC対応機種はさまざまな製品が存在するが、パイロットとしての推奨機種を定めている。

対応スキーム・ブランドは、クレジット(タッチ決済)がJCB、Visa、Mastercard、American Express、Diners Club、Discover、電子マネーがQUICPay/QUICPay+、iD、nanaco、楽天 Edy、WAON、交通系電子マネー(Kitaca、Suica、PASMO、TOICA、manaca/マナカ、ICOCA、SUGOCA、nimoca、はやかけん)、コード決済がSmart Code(スマートコード)、PayPay、d払い、楽天ペイ、WeChat Pay

「Tap on Mobile」提供マーケットを大きく2つに分別
アプリや運用面でのセキュリティ対策も

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