2010年9月1日8:02相次ぐ不正アクセスとPCI DSS対策で注目
EC加盟店で「カード会員情報非保持」の採用は進んでいるか?
近年、SQLインジェクションなどの被害により、クレジットカードの情報がインターネット加盟店のサーバなどから漏洩する事件が相次いでいる。その対策として注目されているのが決済代行事業者の多くがサービスとして打ち出す画面遷移型(カード会員情報非保持)だ。同システムを採用することにより、ペイメントカードの国際基準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)の要件が緩和されるメリットもあることから注目を浴びている。
決済処理は決済代行事業者側ですべて実施
採用企業は13項目未満でPCI DSS完全準拠を証明可能
EC加盟店がカード会員情報非保持システム(画面遷移型)を採用すれば、決済処理は決済代行事業者側ですべて行われるため、カード会員情報漏洩の危険性を回避することが可能だ。
また、EC加盟店などではペイメントカードの国際基準である「PCI DSS」に準拠する要件が大幅に緩和されるメリットもある。PCI DSSの「自己問診」は加盟店やサービスプロバイダの規模やPOS加盟店、インターネット加盟店などの業態に応じて異なり、必ずしも245項目のすべてを求めていない。たとえば、ECサイトなどの加盟店で、カード会員データを所有せず、カード会員情報非保持を導入している場合は、13項目未満でPCI DSS完全準拠を証明することが可能だ。
「注目企業のeコマースサイト活用法」特集では、カード会員情報の処理を加盟店に代わり決済代行事業者側で行う事例を多数紹介した。画面遷移型を採用している企業の多くがそのメリットを口にしているように、非保持は安全対策上、有効な手段であることは間違ない。
多くの決済代行事業者が非保持システムを打ち出す
非保持への切り替えは進んでいるか?
SBIベリトランス、NTTデータ、GMOペイメントゲートウェイ、J-Payment、スマートリンクネットワーク、ゼウス、ソフトバンク・ペイメント・サービス、デジタルガレージ、ペイジェントなど、主要な決済代行事業者では、カード会員情報非保持のシステムを提供しており、新規加盟店や過去に不正アクセスがあった企業を中心に採用も徐々に増えてきた。
しかし、古くからeコマースサイトを運営する大手企業の多くが自社でカード会員情報を保持しており、急速に非保持への切り替えが進んでいるかといえば、そうでもなさそうだ。
ある決済代行事業者の担当者も「保険会社やオンラインゲーム、通販サイトなどからの相次ぐカード会員情報漏洩事件を受け、非保持への問い合わせが増えていることは事実ですが、切り替えたケースは決して多くはありません」と説明する。
加盟店側から見れば、画面遷移型を採用することにより、カードの利用履歴に応じたメール配信、Web画面をカスタマイズするといったきめ細かなサービスは難しくなる。例えば、大手ショッピングモールなどではユーザーが加盟店のWebサイトでクレジットカード番号、有効期限、パスワードなどを事前に入力し、次回以降はパスワードのみでログインできるワンクリック決済が主流になっている。カード会員情報を加盟店側で保持しているからこそできる、きめ細やかなサービスも確かに存在する。また、加盟店側で不正利用の可能性が高い取引の内容を判別することが難しくなるのも課題となるだろう。
実際に、PCI DSS取得に向けて、カード会員情報非保持のシステムを検討した複数のレベル1加盟店(Visa AISで600万件以上)が、決済代行事業者側に支払う手数料などを考え、採用を見送っている。ただ、そういった加盟店の多くが、PCI DSSの取得に想像以上の年月とコストがかかっていることも忘れてはならない。
いずれにせよ、カード会員情報漏洩時の甚大なダメージを考えると、非保持が有効な選択肢であることは疑いようのない事実だ。今後は、新規に決済システムを採用する企業や中小のeコマースサイト、過去に不正アクセスのあった加盟店を中心に非保持システムの採用が進んでいくと思われる。